フラワーデザイナー 川原 伸晃さん

創業1919年「いけばな素材専門店」の老舗、 『三田ハナモ』 (商号:東京生花株式会社)の4代目。
18歳の時に、オランダ人マスターフローリスト、レン・オークメード氏に師事。 欧州フローリスト国際認定資格取得。
その後、パークハイアット東京・グランドハイアット東京等、数々の一流ホテルで勤務。
東京生花株式会社の新プロジェクト発足と同時に同社へ入社、フラワーデザインプロジェクト『REN』を立ち上げ、チーフデザイナーを務める。
・学校法人池坊学園池坊お茶の水学院非常勤講師
・経済産業省「JAPAN DESIGN +」メンバー
2010年12月 中国・上海のビジネスマッチングイベントに参加
2011年1月 フランス・パリの「MAISON & OBJET」に出展
『REN』 http://www.ren1919.com/
『PETAL BY REN』 http://www.ren1919-shop.com/?tid=2&mode=f37
RENの誕生、フラワーリデザインに至る経緯
現在の活動に至るきっかけを教えて下さい。
川原さん:はい、私は創業1919年のいけばなの素材屋の4代目として生まれ、18才のときにお花の専門学校に行きました。そこで実際に花に触れ、作品を作っていく中で、その楽しさに触れ、この世界でやっていこうと思ったんですね。そこで専門を出てから有名店やホテルへ修行をしていまして、2005年に実家の会社に入社しました。実家の会社は、もともと素材屋だったので、素材からデザインすること、アレンジすることは今まで基本的にはやっていなかったんです。ですが、ちょうど自社の中でアレンジをやろうかということになり、そこでブランドのコンセプトから含めて任されて、2005年からRENというブランドを始め、今に至るという感じです。
なるほど。では、RENのコンセプトにある「フラワーリデザイン」が生まれるに至るきっかけを教えてください。
川原さん:お花の専門学校や有名店を渡り歩いて修行をしていたのですが、その際に「そもそもデザインってなんなんだろう」っていうのをずっと考えていたんです。
デザインっていう言葉の意味って、人によって多岐にわたるじゃないですか。
概ね ”装飾、造形”という意味合いが世間としては広く認識されていることだと思うのですが、僕たちのお花の業界も同じようにそうであって、フラワーデコレーションとフラワーデザインの違いってなんなんだろうってことに関して答えられる人はそういないんです。
お花の業界の人たちが言っているデザインってどうやらちがうんじゃないかっていうことをずーっと思っていて、で、デザインって何なんだろう何なんだろうって考えていて、僕は不思議に思ったことは調べずにはいられないタイプなので、デザイン業界の方々が書かれている本をいろいろと読んでみて、僕が一番これだって思った方が原研哉さんだったんです。
原さんの『デザインのデザイン』を初めて読んで、デザインってものをつくること、造形っていうのは起こりえることだけど、それは目的ではない。
ものでもことでも、よりいい方向に導いていく。純粋に対象においてベストな、あるべき姿を提示するっていうのがデザインなんだっていうことがわかったんです。
そこで、その考え方を知ってから、僕も、業界としても、デザインについて全然理解できていないし、今のままではまずいなって思ったんです。
僕らの業界って、僕らの業界以外の分野へのアンテナが高い人は多くないので、原さんのことも知っている方はほとんどいないと思う。
業界全体がいつまで勘違いして許されるのかな。このままでは、社会の変化に対応できず、どんどん置いていかれてしまうのではないかという不安を覚えたんです。
そこでデザインの視点から、フラワーデザインをじっくりと見直してみて、一からコンセプトメイキングをしたんです。
そうして生まれたのが、「フラワーリデザイン」なんですよ。ポイントは「リデザイン」っていう言葉にあるんですけど、僕たちの業界の人々って、装飾やデコレーションがデザインだと思っているので、そういう人たちからすると、花は絵描きさんの絵の具と同じで、造形のための素材の一部にしか過ぎない。
でも、僕はそこが違うのかなって思っていて、植物って自然によって作られたもの、すでに完成していて、デザインされたものじゃないですか。
つまり、その植物をデザインするってことはデザインされたものをデザインすること、これは「リデザイン」なんだって気付いたんです。
それは自己の表現手段ではなく、すでに出来ている植物の魅力をいかに引き出すかっていう視点なんですよ。
「フラワーリデザイン」のきっかけとなった本

デザインのデザイン
作者: 原研哉
出版社/メーカー: 岩波書店
発売日: 2003/10/22
メディア: 単行本
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いけ花の作品づくりに込める想いはデザインに通ずるものがある
次に、作品を作る上で心がけていること、ものづくりに対する想いを教えてください。
川原さん:僕が一番大切にしていることは、日本、いけばなの文化ですね。
いけばなって先ほどのデザインの話のように植物を使った造形表現って捉えられることが多いんですけど、非常にデザインに似ているところがあるんです。

有名な方だと假屋崎さんの様な、アーティスティックな表現だという側面もあるんですけど、そういった流派はごく最近のものであって、実際はいけばなって約500年前からあるもので、読んで字のごとく「花を活ける」というすごくシンプルな考え方なんです。
料理でいえば寿司のようなもので、素材の魅力を最大限に引き出すことなんです。
たった一切れのまぐれをおいしく調理するために、しゃりの握り方や魚の切り方一つにもこだわっていて、シンプルだけどすごいストイックな作業なんですね。
日本には古くからそういった文化が長く残っていたんですけど、 戦後、平和になり自由な時代が訪れたことで自己の主張を謳歌できる環境になってきた。
それでいけばなも自己の主張を行う手段という視点に段々と移行していってしまった。
假屋崎さんも所属していた草月流創始者、勅使河原蒼風氏は「草月流のいけばなは花を生けるんじゃない。人を生けるんだ。」というお言葉を残しています。つまり、花のデザインにあたって自己表現が先立っているんですよ。植物を用いた自己表現を否定するつもりはありませんし、僕も大好きな作品は沢山あります。
しかし、いけばな発生当初の、活けるという意味からは離れてしまっているんですね。本来のいけばなっていうのはデザインに非常に良く似ているんです。
僕はデザインを一言で表すならば、「最適化」だと思っているんですね。
ものでもことでも、よりいい方向に導いていく。これはビジネスの場では、クライアントの要望にもっとも適した答えを提示する。純粋に対象においてベストな、あるべき姿を提示するっていうのがデザインだと思っている。
いけばなも先ほどもお話ししたように限りなく最適化なんですね。
デザインっていう考え方自体が生まれたのは約100年くらい前。それに対していけばなは500年前って言われていて、デザインっていうことばが生まれる400年も前から最適化を行っていた。僕はそれってすごいなと思っています。でも現代のいけばなは完全に自己表現路線にある。
僕は純粋ないけばなの考え方で、現代の社会、生活環境に合うデザインを生み出していきたい、伝えていきたいと思っています。
日本の魅力:日本人は素材の声を聞くことができる
いけ花っていう日本の文化を極めつつ、昨年はパリで展示会をやったりと世界でも活動もされたと思うのですが、その中で感じる日本の魅力とはなんですか?
川原さん:日本の魅力・武器は、素材の声を聞くというか素材の良さを引き出す力だと思います。
アウトプットは概ねシンプルになると思うんですけど、情報を整理して本質を見出して、それを純化させていくっていう能力はとても大切じゃないですか、そこは日本人の強みだなって思いますね。
西洋って自然に対する思想が、東洋のものとは根本的に違うんですよ。
西洋は自然に対して人間が制する、上位にあるっていう考えであり、東洋はその逆で、八百万の神じゃないですけど自然を含めた万物に神が宿るっていう考えがあります。例えば建築を見ると、西洋は石造りで高い塀を作り自然を遮断するのに対し、東洋は木造で縁側のように家と外の間が曖昧で自然を上手く取り込む作りになっている。
つまり、そこに大きな違いがあって、東洋の自然を活かそう、自然の良さを引き出そうっていう視点は日本の魅力だと思います。
日本の評価されているものってどの分野も簡潔なものが多いと思いますし、日本が日本だと認識されているもに関しては、その多くがシンプルで純化されているものが多いと思うのですが、そういう思想が先立っている。シンプルがかっこいい、表面上の美しさという感覚ではない。これは西洋にはなく日本にはある独自の感覚だと思いますね。
日本の課題:日本人はもっと自信をもっていい
逆に、日本の弱点・課題ってなにかありますか?
川原さん:そうですね、自信を持てないところですかね。
西洋のものがすごいんだっていう固定観念が何を見る時も下地としてあると思うんですよね。若い人たちは、減ってきているかもしれないですが、僕らの感覚ではヨコモジってかっこいいみたいな感覚ってどうしてもあるんですよね。そういう意味でフラットに日本に接することができていない。どうせ日本のものはっていう感覚を持ってしまっていると思うんです。
日本ほどローカリティに自信がない国ってすごく少ないと思うんですよね。お花の業界では、多くの日本人のフラワーデザイナーが西洋の文化を参考にしているように、実はフランスの人々も日本のいけばなを非常に参考にしているんです。欧米では100年くらい前、ジャポニズムが流行った時代に浮世絵などと一緒にいけばなの文化は西洋に移っていて、実はそれらの影響を強く受け、今の現代的なフラワーアレンジの価値観が形成されていっているんです。
しかし、それを僕ら日本人が見てどうやらすごいらしい、と捉えてしまっているんです。本当のルーツは日本にあるという事実関係に気づかない日本人が多く、それはもったいないと思います。自信がないからそういう視点でものをあるがままにしか見れていない。疑いを持って見れていない。フランスを始め世界には、日本ほどCOOLな国はないと思っている人は多くいますよ。
私は、日本にもっと誇りをもっていいと思っています。
デザインの分野に植物というジャンルを開拓していく
それでは、川原さんの今後の活動について教えてください。
川原さん:これは現在進行形でもあるんですけど、デザインの大枠に植物っていうジャンルを加えたいと思っています。
例えば、デザイン関係の雑誌を開いてみてもプロダクトやグラフィック、建築などがある中で今までは植物っていうのは全く入ってこなかったんですよ。
それはデザインじゃないと社会からも思われているからであり、でも本当はデザインされていく必要があると思うんです。
そこで現在は JDNのcaina.jpに、商品を置かせていただいてうちが初めて植物として商品を置いてもらったり、昨年は「JAPAN DESIGN+」の活動をしたりなど、他にもデザイン関連の仕事を増やしていきたいですね。デザインと思われる分野に植物というジャンルを開拓していきたいです。
フラワーリデザインという概念を発信していきたい。そのためにも若い学生の方々にも積極的に伝えていきたいんですよね。従来は花を学ぶためには人々は専門学校に行くんですけど、本当は美大にあるベきなのではないかと思いますね。美大に植物デザイン学科を作ることができればと思いますね。

学生に対するメッセージ
最後に、デザインや芸術に関心のある学生に対してメッセージをお願いします。
川原さん:そうですね。やっぱり日本に自信を持ちましょうと言いたいです。それは根拠のない自信じゃなくて、どんな分野でも日本が成し遂げてきたことってあると思うので、それを振り返るっていうことがとても大切だと思います。
僕はさまざまな勉強をしてみて、現代的であると言われているものの源泉は日本にあると思っているんですよね。
世界が気づく何百年も前から、日本は今の社会でよいとされている美意識を開発していたという事実があり、
すべてにおいて日本の持っている資源って美意識だと思う。自分の分野と日本の文化を結びつけて考えてみると新たな視点が得られるかもしれないですよ。
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