「商品やクライアントの人格化が重要なんです。」 広告業界最前線の3人が明かす、ヒット作への企画術

みなさんこんにちは。

キックオフイベントが終わり、2ヶ月近くが経とうとしていますが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、先週の7月14日(火)に、渋谷ヒカリエ8/COURTにて、CMディレクター 黒田秀樹さん、CMプランナー 福里真一さん、銀河ライター 河尻亨一さんのお三方をゲストとしてお迎えして、絵コンテワークショップが開催されました。

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それでは、ワークショップの内容を紹介していこうと思います。(1部と2部に分けてお送りします。)

参加した方は振り返りに、参加できなかった方は今後の制作の参考に、ぜひご一読ください。

 

 

〜『日本郵政 ゆうパック「バカまじめな男・登場」編』を視聴して〜

福里:ゆうパックの長所を訴求する方法を考えるのではなく、ゆうパックに一番足りないものはなんなのかを先に考えました。郵便局のイメージもあるので信頼感はもともとあるようでした。しかし、感情移入しにくいという弱点も抱えていました。

そこで、ゆうパックの顔をつくるということを第一に考えました。つまり、ゆうパックの人格化ですね。企画コンテの大事なところは、企画がわかりやすく伝わることなんです。凝ったカット割りとかではありません。これは登場編なので、登場感を強調するところを気をつけました。

そうして出来た企画コンテを、ディレクターの方が演出コンテというものにします。この場合、ディレクターの方がこだわっていたのは、松本(仁志)さんを最後まで出さないことでした。企画コンテでは最初から顔を出しているんですが、演出コンテではそれが変更になっています。

河尻:それは、最後の出てきたときのインパクトを強くするためですか?

福里:はい。また、細部にわたって「異常なバカまじめさ」と「登場感」を強調しています。

河尻:いま、福里さんが話した企画コンテの部分と、その後の演出コンテの部分を、みなさんは一つにチーム内でやらなきゃいけないってことを理解してもらいたいですね。

黒田:ディレクターとしては、もらった企画が狙っていることを検証していったり、批判的にみたり、賛同したりと、いろいろな目線からその企画をみます。衆議院を通過した法案が参議院でもまれるって感じですかね。最終的には、見た人に効率よく、より面白く伝わっているか、ということを強く意識します。

河尻:プランナーが企画コンテで「バカまじめ」っていう企画を出します。その同じ企画に対しても、演出家の方によって面白化のやり方は変わってくるということですね。

黒田:そうです。500人の演出家がいれば、500通りの演出コンテができるっていう話をよくします。自分では出来ないような発想であったり、構想に出会うことも少なくないです。

 

〜『大塚食品「ザ・カルシウム」』のCMを視聴して〜

(こちらは動画をご用意できませんでした。ご了承ください。)

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黒田:演出部は、ぱっと見では伝わらない人間関係を、CMを見てる人にわからせなきゃいけません。ここでは、「毎日遊びに来てて、お母さんに皮肉を言われる北条さん」っていう設定だったんです。でも僕は、初対面の設定に変えました。「北条ひろしさんを紹介します。ひろしさんは…」ってセリフだけでそれが伝わりようにしました。

さらに言うなら、企画コンテではマンションのリビングっていう設定だったんですけど、洋館という設定にしちゃいました。生活感を抜いた表現の方が僕は得意なので。僕は生活感を出すより、演劇的にデフォルメしていくのが好きで、言葉遣いなんかも意識しています。

企画っていうのは木の幹だったり根っこだったりするとても大事な、骨のような部分であるといえます。演出っていうのはそこに枝なり葉をつけたり、花を咲かせていく作業だと思っています。

河尻:繰り返しになりますが、みなさんには企画コンテと演出コンテの両方があるということだけ覚えて帰って欲しいと思っています。その上で、出すときは両プロセスをやってみるというのがmy Japanのやり方です。両方がごちゃごちゃになってしまっているものは例年見ていても受賞しにくいですね。ちゃんとおもしろい企画、ここでいう「女は骨で選びなさい。」っていうのがあって、おもしろい映像にジャンプできていることが必要です。

 

〜『サントリーBOSS「高見盛 引退編」』を視聴して〜

福里:一つ一つのエピソードがどうこうってよりは、プランナーとしては、宇宙人が地球を調査しているという企画なんです。毎回、いろいろ職業を変えながら調査をしていて、地球人の可愛げのあるところや面白いところを報じていくっていうのが企画です。そういった基盤となる企画があれば、引退したばかりの高見盛などの、時事的な話題も取り入れられます。

しかしあくまでも主役はジョーンズなので、ジョーンズの気持ちとか、なんらかの思い出、ある状況を調査しているっていう設定は大切にしています。

河尻:経験のない人が、先ほど話してくれたような企画をつくるにはどのやったらいいんですかね。

福里:素直に考えることですね。クリエイターには2タイプいて、そのタイプによるところもあります。僕は、クリエイタータイプとノンクリエイタータイプがあると考えているんです。クリエイタータイプっていうのは、自分の中に表現したいものがあるんです。ミュージカルっぽくしたいとか、シュールな感じで、ストーリーとか間(ま)とかで表現したいとか。それに課題を当てはめていくスタイルですね。

ノンクリエイタータイプは、毎回与えられた課題にどう答えていくかっていうのを順番に考えていくタイプです。僕は典型的なノンクリエイタータイプで、自分のなかに表現したいものや固執するような部分はそんなにないんですね。割と素直に考えます。その商品がなんで生まれたのかっていうところから考え始めるのが基本ですね。

 

〜『ペプシコーラ「ペプシマン」』を視聴して〜

黒田:ペプシマンは、宇宙人ジョーンズと同じ発想な気がします。てっとりばやく、ペプシのCMにしか出演できない、ペプシマンというタレントをつくってしまうっていうスタンスですね。僕もノンクリエイタータイプで、このCMもラストカットを考えて、あとは逆算しているんです。ここでは缶が凹んでいますよね。

河尻:これが企画ですね。

黒田:そうです。ラストカットは1.5秒ですから、あとの28.5秒はあとで考えるんです。つまり、砂漠編では「商品が消えていく」っていうのがやりたかったんですよ。「商品が消えていく」からスタートして、「じゃあなに?」ってなった時に「蜃気楼だ!」ってなったんですよ。最初の段階では砂漠の要素なんて少しも入っていませんでした。着地するポイントだけしっかりしていれば、その前のジャンプはいくらしたっていいんですよ。

河尻:大前提としてペプシっていう商品がタレントになるっていう大きな企画があって、その各シリーズで「今回は消そう」「今回は凹まそう」とか考えるわけですね。そうすれば、ずっと商品が出ているようなものですもんね。ところで、演出のなかで一番大切なところはどこですか。

黒田:簡単にいうと、不真面目なところですね。僕は、娯楽CMを作りたいといつも思っているので。笑ってほしいだとか、楽しんでほしい、なによりも偉そうにしていたくないっていうのが基本にあります。商品を讃えるのではなく、少し斜めからみてみる。福里さんのいう、電信柱の陰からみてるていうのにも共感するところは多いんです。

河尻:不真面目にやって面白いものができるっていうのは、大前提として、しっかりした企画があるわけですよね。

黒田:宇宙人ジョーンズも、ペプシマンも10年続く企画です。例えるなら、油田を掘り当てるようなものですね。しっかりとしたフレームを見つけてしまえば、あとはネタはいくらでも湧いてくるんです。福里さんも言っていたように、時事ネタを含ませることも簡単にできます。

 

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みなさんいかがだったでしょうか。
企画と演出でコンテが違うというのは意外と知らなかったことかもしれません。
ただ、CMは違えど、黒田さんと福里さんのどちらも企画の考え方や発想の元は似たものがあったような気がしました!

絵コンテワークショップの前半はここまで!後半は、ご来場の参加者から提出いただいた絵コンテを参考に、より実践的な絵コンテの書き方について話が進んでいきます!

 

※絵コンテワークショップ第二部のブログをご覧になる方はこちらからどうぞ。

Text:Junta Mayuzumi

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